NEXレース第13戦西日本GP、最終戦の舞台は、初開催となる大阪関西万博サーキットで行われた。
7,246mのロングコースは、ドライコンディション。
今季2度目となるリボルバーストの周回制限解放の特別ルールが導入された。
キングとクイーンのチャンピオン争いがここで決定するため、観客の多くはこの二人のどちらが勝つかに注目していたが、このグランプリでの勝者は誰も予想出来なかった。
ポールポジションは、ロレンツォ・M・サルヴァトーレ。
その横2番グリッドには、アリス・サマーウッドと、タイトルを賭ける者同士がフロントローに並ぶ。
3番グリッドは、ポイントランキング3位を守りたい劉悠然が獲得。以下、4番リチャード・パーカー、5番ADF AI、6番ソフィア・B・時任、7番浅河カナタ、8番小町永遠。
輪堂凛は、一時予選で1位を記録したものの、アタックラップでAIのみでの走行が確認されたため、タイム抹消となり単独での再度タイムアタックを行い、9番グリッドに沈んだ。
10番手ベン・エメリッヒ、11番手メリッサ・ワイズ、12番手若松やよいと並ぶ。
緊迫したスタート。全車ミスなくスタート出来たが、いち早くリボルバーストを発動させた6番手ソフィアが、1コーナーを制してトップに出ると、リチャードもリボルバーストで続く。
アリスに2番手を譲ると、ロレンツォへのブロックを開始し、その隙に悠然、浅河、小町、輪堂までもにオーバーテイクを許し、1周目を終えた時点で8番手まで後退する。
対して、初のタイトルへ意気込むアリスは、ソフィアから順位を奪い返しトップに。
1周目を終えた時点での順位は、アリス-ソフィア-悠然-浅河-小町-輪堂-リチャード-ロレンツォ-ADF AI-ベン-メリッサ-若松と、各者大きく入れ替わる展開となる。
中団勢では輪堂のペースが良く、17-18コーナーの高速セクションで浅河と小町を抜くと、悠然とソフィアまでをも捉え、アリスを追ってトップ争いまで食い込む。
ピットが動きだしたのは10周目。1位を守るアリス、ファステストラップで追う輪堂が最初のピットインを終えると、悠然、浅河、小町も続く。
トップ2台はハイペースで走行を続け、またしても輪堂がブリッジセクションの高速コーナーで仕掛け、リボルバーストを重ねて加速すると、ついにアリスを抜いてトップで躍り出る。
それでもアリスはポジションを守ればチャンピオンを獲得できる安泰の状況であったが、1回目のピットインでチームメイトのリチャードにトラブルが発生。タイヤ交換を終えてから発進できず痛恨のリタイア。前がクリアになったロレンツォに反撃の機会を許してしまう。
そのロレンツォは、15周目に怒涛の追い上げを開始し、いとも簡単にアリスをオーバーテイク。翌周には輪堂をも捉えると、トップへ躍り出ててチャンピオンに王手をかける。
このままロレンツォが圧倒的な速さで逃げ切るかに思われたが、母国GPに燃える輪堂が抵抗を続ける。
30周を越えたあたり、お互い同じタイミングで2回目のピットを終えると、第3スティントも1台分未満のスペースで熾烈な争いを繰り広げ、36周目ついに輪堂が、得意のブリッジセクションでスリップストリームに入ると、最終バンクのイン側からロレンツォを差し切りトップへ。
ところが、数周前から雲行きが怪しくなっていた大阪でまさかの事態が発生する。輪堂が1位へポジションを上げた直後、落雷により夢洲全体が停電となり、サーキットやNEXレース管理システムがシャットダウン。
全車安全装置が起動し、緊急停止を行いレースは赤旗中断。セーフティーカー先導の元、マニュアルオペレーションで全車ピットに戻り、ドライバーも一旦マシンから降りて待機となってしまう。
なんとかNEX管理本部が復旧措置を進め、問題なく再開が出来るようにも思われたが、全チームタイヤチェンジャーの復旧が出来ないことが判明。しかしながら、赤旗中断中にタイヤ交換をすることもできないために、以降ピットインを予定していた作戦のチームにとっては、ピットクルーの手動でタイヤ交換をする他なく痛手となる事態。
上位2名よりも新しいタイヤのアリスにとっては、絶好のチャンスが巡る。
レースは無事に、セーフティーカー先導の元、39周目からローリングスタートで再開が決定。
再開時点での順位は、輪堂-ロレンツォ-アリス-悠然-ソフィア-浅河-小町-ADF AI-ベン-メリッサ-若松。
ローリングスタート直後、ラップリーダーの輪堂は真っ先に加速。しかしながら、ロレンツォも上手く輪堂にスタートを合わせ、1コーナーでアウトからオーバーテイク。
しかし、40周に入る目前、ロレンツォがまさかのピットイン。輪堂もピットに入るが、当然アリスはステイアウトを選択。初のタイトル獲得へ向けて、残り5周をロレンツォから逃げ切る。
更にこの状況を悪化させる事態がロレンツォにのしかかる。タイヤ交換時、アドリアーノのクルーが、右フロントタイヤの交換に手間取ってしまう。対して、輪堂の武戦レーシングは、手動でのタイヤ交換は手慣れた様子でアドリアーノをピット作業で圧倒。武戦クルーは、NEX参戦初年度ということもあり、逆にタイヤ交換は手動で行うのが当然の環境にいたのだ。
順位は入れ替わり、輪堂とロレンツォが、フレッシュタイヤでステイアウト勢を猛追。
タイヤデグラデーションが極端に大きいNEXレースでは、フレッシュタイヤとユーズドタイヤではタイムが全く違うこと、かつ、この日の2人のペースは異常とも言える速さであるため、ものの数周でオーバーテイクショーを開始する。
輪堂とロレンツォがトップのアリスへ迫った42周目、ここでも悲劇が起こる。激しいブロッキングを繰り返すアリスの左リヤタイヤが限界を迎え、激しくバースト。悲願のタイトルを目指すクイーンは、ここでレースを終えることになり、キングのタイトル連覇が確定した。
アリスはそのままグラベルに放り出されたのち、瞬時にイエローフラッグが振られたため、現状の順位でレースを終えるかに思われたが、アリスが自力でエスケープゾーンまで走りきったため、フラッグはグリーンに切り替わる。クイーンの手によって、レースは続行されたのだ。
タイトルが確定した今、全ての観客と視聴者、放送局は、ルーキー輪堂と、キングロレンツォの直接対決に焦点を集中させる。
ロレンツォは、44周目に輪堂をオーバーテイクすると、輪堂が仕掛けるであろうブリッジセクションで華麗にブロック。ついに1位でファイナルラップを迎えたが、初優勝がかかった輪堂も、テールトゥノーズで喰らいつき、勝負の17コーナーまでその差は離れない。
ここでもロレンツォが抑えたが、最終コーナー出口で輪堂がスリップストリームに入ると、輪堂がリボルバーストでオーバーテイク。ロレンツォも最後のリボルバーストを発動すると、ついにホームストレートで両者は並び、サイドバイサイドのままチェッカー。
スコアボード一番上に表示されたのは・・・輪堂凛。
NEXレース参戦初年度の最終戦、母国となるこの日本で、実力でキングに打ち勝った輪堂凛に、全てのファンが感極まった。
ルーキーがNEXレースで優勝を果たしたのは、発足シーズンを除くと史上初。まさに快挙である。
以下、最終リザルトとなる。
順位 | ドライバー | チーム |
---|---|---|
1位 | 輪堂 凛 | 武戦 |
2位 | ロレンツォ・M・サルヴァトーレ | アドリアーノ |
3位 | ソフィア・B・時任 | ポレイユ |
4位 | 劉 悠然 | バイフー |
5位 | 浅河 カナタ | イザナミ |
6位 | 小町 永遠 | イザナミ |
7位 | ADF AI | アドリアーノ |
8位 | B.エメリッヒ | ジン |
9位 | M.ワイズ | アメリカンオート |
10位 | 若松 やよい | マッサカ |
11位(DNF) | A.サマーウッド | アリアンロッド |
12位(DNF) | R.パーカー | アリアンロッド |
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惜しくも2位に敗れたロレンツォだが、リチャードの執拗なブロックや、落雷でのピット戦略の不利益、ピットでのタイヤ交換ミスまでと、不運の連続が襲いかかりつつも最後までトップを争った功績は、まさにキングと呼ぶに相応しい活躍を見せた。
NEXレース2034年、ドライバーズタイトルは、ロレンツォ・M・サルヴァトーレが制し6連覇。
コンストラクターズタイトルは、当レースでは2台ともリタイアとなったが、アリアンロッドグランプリが獲得。
また、日本人ルーキーの一人、イザナミの浅河カナタも今季初ポイントを獲得した。
レース後、輪堂凛は「少しは出来たと思うよ、私!」とユーモア溢れるコメントを残し、ファンを魅了。ここ数日、日本のスポーツニュースの一面はNEXレースで飾られるだろう。
シーズン序盤は、多くのミスやトラブルが見受けられた輪堂凛であるが、2年目となる来季はシーズン序盤からの活躍が期待されている。
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